DXという言葉が日常的に使われるようになってきました。
改めて「DXとは何か」どのように取り組んでいけばいいのかを考えるにあたって、西村泰洋氏の「図解まるわかり DXのしくみ」(翔泳社)*が分かりやすかったので、この内容を参考に、DXへの取り組みの入り口として考えておきたいことを、簡単にまとめてみました。
1.DXとは何か?
DX(Digital Transformation /デジタル・トランスフォーメーション)のトランスフォーメーションには、「変革」や「変容」の意味があり、これがXと略されてDXと表記されています。
したがって、デジタル化やIT化を進めることを指すわけではなく、「デジタル」×「トランスフォーメーション」で、「デジタル技術を活用して、組織の経営や事業の変革・変容を実現する取り組み」といった意味を持つことになります。単に、業務効率化やコスト削減などの「改善」の取り組みを指すのではなく「変革」を伴うということです。
しかし、DXという言葉を使うときは、使う人や組織によって抱く印象や意味合いは異なることがあるため、「私たちが使うDXとは、どんなことを指しているのだろうか」と必ず関係者間で確認しながら進めた方が良いでしょう。
言葉の意味は、使う人や組織の文脈の中で意味を形成していくため、これはDXに限ったことではないのですが。
DXは、エリック・ストルターマン(ウメオ大学教授,スウェーデン)が、2004年に提唱した概念といわれます。
日本では、2018年に経済産業省が「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と具体的に提唱しています。
DX実現のためのデジタル技術を理解するにあたっては、物理的にどのように存在するかの視点から、デバイス、ネットワーク、サーバー/クラウドの3層で整理すると分かりやすいかもしれません。各技術の基本的な位置づけを理解することから始めると、円滑な検討につながることでしょう。(図)
2.国の動き
2016年「第5期科学技術計画」(内閣府)で発表された「Society5.0」では、我が国がめざすべき未来社会の姿として「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を行動に融合させたシステムにより、経済発展と社会て課題の解決を両立する、人間中心の社会」と提唱されています。
また、2018年6月には、内閣官房IT総合戦略室によってクラウド・バイ・デフォルト戦略と呼ばれる「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用にかかる基本方針」が発表され、中央官庁が率先してクラウド活用によるデジタル化を実現することを示しました。
同年12月には、経済産業省より「DX推進ガイドライン」(デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン)が発表されました。この背景には、既存システムのブラックボックス化が解消できないと、DXへの対応力不足で競争力を失うことや、システム維持管理費の高額化、保守運用の担い手不在によるトラブルなど、「2025年の崖」と呼ばれる業務効率や競争力低下への危機感があります。
3.DXへの取り組みの入り口
5-6年ほど前から始まった一部の大手企業の取り組みは、既存システムにデジタル技術をアドオンする考え方で、2-3年を掛けた大規模で複雑な先進的な取り組みが進められてきました。
金融機関などにおいて、AIとRPA(Robotic Process Automation)を導入して、内部事務の自動化と顧客接点での変革を目指す取り組みや、製造業においてAIとIoTによる製造現場の改革やクラウド導入による顧客企業との在庫情報などの共有する動きなどが挙げられます。
近年のトレンドとしては、ユーザーにアプリを使ってもらうSaaS(Software as a Service)などの新しいシステムを使うことで、1年程度の短期間で中小規模の業務実績を挙げてDXを展開していく取り組みが広がっているようです。
具体的に取り組んでいくためには、次の3つの観点からの取り組みが必要になるようです。
①戦略・方法論:データ化・デジタル化⇨デジタル技術の導入⇨新システムなど
②組織の最適化:CDO(Chief Digital Officer)選出や組織の縦横連携など、実現に必要な組織体系の整備
③ITスキル:実現の可能性や幅・深さを広げるために、デジタル技術への知見を深める
そしてこれらの前提となるのは、経営理念に沿ったビジョンとの整合性や経営者の強い意志です。未来に向けた組織の大きな方向性を定め実現に向けての取り組みを行っていくわけですから、組織全体での協力的な風土の醸成も大切な要素の一つです。組織の理念やビジョンなどを共有していく取り組みも成功のための重要な取り組みになります。
こうした取り組みを内部だけで進めていくと、知らず知らずのうちに組織内の暗黙の常識や前提に囚われて、改善レベルの発想にとどまってしまい、変革・変容(トランスフォーメーション)の段階まで至らないことがよく起こります。
可能であれば、組織や戦略方法論、ITスキルなどの外部の信頼できる専門チームの力を借りて、連携して取り組むことが望ましいように思います。内部だけでは見えてこなかった新たな視座が広がり、より大きな可能性の扉が開くことと思います。
4.DXに求められる技術など
組織の方針・方向性や体制が整ったら、具体的な取り組みに入って行くわけですが、DXに関連する様々な技術や知識が必要となります。私は、この分野の専門家ではありませんので、概要だけ整理しておきたいと思います。
①フロントエンドを支えるデジタル技術:AI、RPA、IoTなど
②Web技術:ブラウザ、Webアプリ、UXデザインなど
③バックエンドを支えるクラウドサービスとその技術:IaaS、SaaS、VPC、仮想サーバーなど
④データベース、データ処理:ブロックチェーン、チャットボットなども含む
⑤DXの企画・設計に関するスキル:セグメント分析、内部・外部分析、デザイン思考など
⑥システム連携、セキュリティ対策:iPaaS、BPMS、多層防御、多要素認証など
⑦DX人材の育成:取り組み実態の把握、具体的な人物像、育成メソッドなど
このように、DXといっても多岐にわたる知識やスキル、ノウハウが必要となります。体系的な準備を整えて取り組むことが必要になるでしょう。
5.DX実践による副次効果
DXへの取り組みによる変革で、ビジネス面などの価値が向上することに加えて、社会への価値提供への寄与が生まれたとするレポートがあります。
2020年6月の富士通のプレスリリースによると、デジタルトランスフォーメーションの世界的な動向・実態把握を目的にした調査の分析結果として、「グローバル・デジタルトランスフォーメーション調査レポート 2020」が公開されました。
これは、オーストラリア、中国、フランス、ドイツ、日本、シンガポール、スペイン、イギリス、アメリカの9カ国の経営層や意思決定者900名を対象としたもので、特に4回目の調査となる今回は、デジタルトランスフォーメーションの成功要因などの項目に加え、新たに、社会への価値提供の重要性に関するビジネスリーダーの意識について調査分析を実施したそうです。
この中で、デジタルトランスフォーメーションを実践し結果を出した回答者の89%は、デジタルトランスフォーメーションはビジネスの価値向上だけでなく、社会への価値提供にも寄与したと回答しているのは、大変興味深いところです。
出典:富士通プレスリリース「世界9カ国のビジネスリーダーを対象とした「グローバル・デジタルトランスフォーメーション調査レポート 2020」を公開」(URL: https://pr.fujitsu.com/jp/news/2020/06/29.html)
*参考文献:西村泰洋,2021,DXのしくみ,翔泳社
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